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 村の自然
生物遺体からわかる古環境
これまでの発掘調査では、主に土器などの遺物から年代の判定や暮らしの推定を行ってきました。
当時、遺跡がどのような自然環境にあったのかを知るためには、動物、植物、昆虫などの生物遺体を調べればいいのですが、このような生物遺体は腐食して残ることは少ないのです。
ところが、下之郷遺跡ではこれまでにも述べてきたように、樹木や葉の遺物がしっかりとした状態で出土しており、これらの調査をすることにより、古い時代の環境の推定をすることができます。
これまで、古環境についてあまり調査がされてこなかったのは、生物遺体が残っているか、ということと、生物遺体の調査には特別な技術・知見を必要とするからです。
下之郷遺跡では、保存状態のよい豊かな遺物が見つかることから、生物遺体にも注目して発掘調査と調査研究を行いました。
生物遺体の研究方法

植物遺体の研究方法

植物遺体を調べるには、採集した葉や種、出土した木材の分析を行って植物、樹木の種類の判定を行います。対象物によって調べ方は様々ですし、目に見えるサンプルばかりではありません。花粉やプラントオパール、珪藻類の化石など顕微鏡でしか見えないようなものも調べるのです。
木材
木材は細長い細胞の集まりで、樹種によって細胞の種類、配列、形態が違います。そこで、木材の一部を薄く切り取り、顕微鏡で観察してその種類を判定します。
植物の葉と種
下之郷遺跡では、まだ緑色の残った葉やドングリのような実も出てきます。これらは肉眼で種類が判定できますが、野草のような植物では、種や花粉、組織の一部など小さすぎて肉眼観察では判別できません。
そこで、環濠の堆積物を目の異なるフルイを使って水洗選別し、残った遺物を実体顕微鏡で調べます。そうして植物の種類と数を求めます。
花粉やプラントオパール
植物の花粉や胞子は非常に固く、土の中によく残ります。これを観察すれば植物の種類が判りますが、非常に小さいため、花粉を含んでいる土を薬品で溶かすなどの処理をして顕微鏡で調べます。
また、イネ科の植物は枯れた後も、細胞内に蓄積したケイ酸がガラス質の微化石(プラントオパール)として土壌中に残ります。これも花粉と同様な方法で調べることにより、種類と数量が判ります。
藻類
珪藻はケイ酸質の殻を持つ単細胞藻類で、殻は化石として土壌中に残ります。これもプラントオパールと同様な方法で調べることができます。これを調べることにより、藻の種類と量の判定と、そこが水辺出会ったこと、湿り気のある土壌環境であったことが判るのです。
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木材組織の顕微鏡写真
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植物遺体の顕微鏡写真
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珪藻類の化石の顕微鏡写真

遺跡から発見された昆虫

環濠や井戸の深い所から、植物の葉や種子に混じって昆虫の遺体も見つかります。その多くは、甲虫の仲間の翅(はね)や頭部、体の一部です。これらを顕微鏡で現生の昆虫の体と比較しながら、どの甲虫か判定していきます。
昆虫の種類が判ると、その食性(糞、腐敗物、植物、花粉など)や生活場所(空中、地面、水辺など)から当時の環境を推定することができます。
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遺跡からでた昆虫遺体の顕微鏡写真
見付かった植物と古環境

見付かった植物

このようにして、どの環濠のどの土層(年代に換算できる)からどんな植物遺体が出土したかが判りました。
出土した植物の主なものを示します。
植物

弥生の環境の復原

これまでの調査で、下之郷遺跡周辺にあった樹木、植物の種類が判りました。でも、どこにどんな樹木が植生していたかは判りません。
樹木には生育に適した場所があり、また人との関わりで育つものもあります。遺跡周辺の土地の高低や傾斜、川筋の存在、藻類の生育から判る湿地などの要素を加えて考察していくと、下之郷周辺の林の配置が想定出来ます。
そのようにして復原したムラの植生が下の図です。
まず、集落は自然堤防の上に営まれ、環濠内側の集落には、古くからの樹木や林などの植生がかなり残っていたことや集落の下流部の低地には川が流れ、水田に水を引くための水路もつくられていたと考えられます。そこには、水生植物やヤナギなどの耐湿地性の植物が茂り、水に浸かっていない低湿地帯にはハンノキ林が広がっています。そうして、ハンノキ林を伐採した場所には、コナラなどの二次林が発達しています。また、集落の周囲には、もともとの川岸林由来のケヤキ林が見られます。それから、少し離れた高台にはシイ、カシの常緑樹の林が広がっていたようです。
植物

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