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いろいろな道具
下之郷遺跡では、土器や石器に加え木製品が多量に出土しますが、圧倒的に環濠からのものです。これらの出土品は、かってムラの営みの中で実際に使用されたものであり、弥生時代に生きた人々の生活の様子を物語る、とても貴重な資料です。
各種の木製農具、稲籾(いなもみ)、アワなどがたくさん見つかっていて、初期の農業の姿を復元していくことが出来ます。
武器、武具も多く、当時の”戦”という緊迫した社会情勢があったことも伺えます。
出土した土器
出土した土器は多種多様にわたりますが、圧倒的にこの地で作られた土器が多いです。紀伊、東海などの影響を受けた土器も見られますが、量も少なく、とくに西側から運ばれてきた土器は稀です。
出土した土器を検討した結果、この遺跡が弥生時代中期後半、今から2200年前のものと判明したのです。

出土したいろいろな土器

井戸や環濠から出る土器は、割れて細かな破片になっているものが多いのですが、壊れていない完形品や割れていても破片をつなぎ合わせると元の形に復元できる土器が多いのも特徴です。

土器

近江の土器の特徴

弥生時代の野洲川左岸域は、日常生活の容器である土器に極めて強い地域性を持った土地柄です。弥生中期から他地域には見られない甕(かめ)型土器を製作し、後期以降にまで及んでいます。このような特徴は甕だけでなく、壷や器台、鉢についても言え、考古学の世界では「近江型土器」として知られています。
弥生土器は、穀物などを貯蔵する壷は美しい文様で飾られ、煮炊きに使う甕は厚い煤が付着するため、飾られることがないというのが一般的です。
ところが近江では、煤が厚く付着し薄汚れた甕に丹念に文様が刻まれています。煮炊きに使用する甕までに著しく文様を加える近江の地域色は、弥生文化の中で異彩を放っています。
近江土器に顕著な特徴「受口状口縁」の写真を示します。
受口

土器に施された文様

下之郷遺跡で発掘された土器にはいろいろな文様が施されています。文様は主に点や線、筋、波などを組み合わせた幾何学的な図柄がほとんどです。でも、中にはシカなどの動物の線画き文様が施された土器も出ています。
煮炊きに使われ煤で汚れてしまう土器にまで丹念に文様が施されているのが特徴です。
シカ
シカの文様のある土器の断片と復元想像図
文様
いろいろな文様のある土器
文様
いろいろな文様のある土器
文様
いろいろな文様

工夫された土器

下之郷の弥生人はいろいろな工夫をして土器を使っていたようです。
【籠目(かごめ)土器】
井戸の底から、壷の胴体にツルを籠目のように巻き付けた細首の壷が出土しました。ツルをタスキ状に交差させて編んであります。釣瓶(つるべ)として井戸の水を汲み上げるのに使っていたのでしょう。
【蓋(ふた)付き土器】
壷の上部に、開けた壷が出てきます。この穴は何のために開けられたのか判っていませんでした。しかし、壷の小穴付近から紐の破片が見つかり、また、壷の中からも同種の紐が出てきました。壷の穴の構造と紐の存在から、紐を穴に通してと考えられます。
また別の所から、壷の蓋(ふた)と思われる円錐形の土器も出土しており、こちらにも小さな穴が2つ、対角線上に2組開けられています。このような壷と蓋はセットで使われ、紐を通して結んでいたと考えられます。
食べ物や水が入った壷に蓋をしていたのでしょう。また、紐を持って持ち運びしていたかも知れません。
環濠の底で泥水によって空気が遮断され、紐の断片があまり腐食せずに残っていたことで、新たな事実が浮かび上がりました。
籠目土器
籠目土器
紐付き土器

紐を通して使っていた?
紐
小穴に通した紐

【濾し器(こしき)?のような土器】
小さな穴がたくさん開いた土器が出土しています。大きさは現在のガラスコップくらいの大きさです。下部は細くなっていて、底にまで穴が開いています。
上部には小穴が2個、対面して開いており、紐でも通すような感じです。この構造からは、濾し器のような用途が考えられます。
【把手付き土器】
土器の取り扱いや持ち運びに便利なように取っ手を付けた土器も出土します。取っ手を付ける方向も、用途を考えて縦方向や横方向に付けています。当時の人たちもいろいろな工夫をしていたことが判ります。

濾し器
小穴が一杯の濾し器?
取っ手付き土器
把手付き土器
木製品のさまざま
環濠からは、多数の木製品がほとんど腐食せずに出土します。
出土した木製品は、日常生活に使用する容器をはじめ、農具や武器・武具などがあり、用途に合わせて幅広い加工がなされていたことがわかります。
また、使用された樹木の種類を調べると、製品によって樹種の使い分けがされていました。当時の人はすでに優れた知識を持って木を選び、道具で加工を行っていたことがわかります。

日常生活の木器

環濠からは、日常生活で使われた木製品がいろいろ出土します。
通常、木製品は酸化して朽ち果てたり、微生物や虫に食べられて形が無くなることが多いのですが、下之郷遺跡では、泥水の中で酸素が遮断されたため木製品がそのまま形を残してでてきます。
木製品

木製品 木製の容器(槽:そう)も出土しています。
外形はきれいな円形で、底面は滑らかな球面に加工
されており、この時代に優れた木工技術があったことが
判ります。


いろいろな農具

弥生時代は、稲作農耕が本格化した時代でもあります。
下之郷遺跡でも、多数の農具が出土しており、ムラでの盛んな稲作の様子を示しています。
土を掘り起こす鋤(すき)や鍬(くわ)、脱穀に使用する竪杵(たてぎね)などが出土しています。
収穫の時に用いたのでしょうか、荷物を背中に担ぐときに便利な背負い板も出ています。
背負い板を背中に密着させるための固定棒も出ています。
農具
農具
農具 中央部は細くて握り易く、
また滑り止めの段が
付いています。


農具 固定棒を止める穴(2個)と、
紐を通すための穴(4個)が
開いている

建築材料

環濠からは、板や柱、杭のような木材が多く出土します。きっと、建築部材として使われたものもあるでしょう。
中には、高度な加工をされた木製品も見つかっています。大きさや形状から建築部材と考えられます。
写真 写真
屋根飾りと考えられる扇状の装飾品
2本の柄と扇のように広がる飾りの組合せ
 軸部長:95cm
写真
簾(すだれ)壁や窓枠の可能性がある
細い棒を組み合わせてある木製品
 寸法:74cm×56cm 棒:1〜1.5cmφ

多くの未製品

環濠から見付かる木製品には、まだ作りかけの未成品が多く含まれます。
器が乾燥すると石器では削りにくくなるため、製作途中で作業を中断するときは水に漬けて保管していたと考えられます。
未成品
石器(武器は次のページ)
下之郷遺跡からは多くの石器が出土しています。金属器が普及するまでの長い間、木材の伐採や加工するための石斧類、狩猟や時には武器として使われた鏃(やじり)、稲の穂摘み具である石包丁など、広く用いられました。
この他、魚取りで使う網の錘(おもり)として使われた石錘も出土しています。また、玉造に用いる石のこの刃もいくつか出土しています。
石斧は、いろいろな形状・大きさのものがあり、伐採用、加工用、それも荒削り用や仕上げ用に適したように使い分けていたようです。
石斧 石包丁
石包丁
石錘
石錘(せきすい:「いしおもり」のこと)


籠(かご)、編み物
遺跡からは、植物で編まれた籠やざるが出ています。
これらを観察すると、当時の”編み方”をみることができます。出土したものからは、網代(あじろ)編み、ザル編み、六つ目編み、木目編みの4種類が確認できます。すでに高度な編み組みの技術があったようです。
壷が倒れないように底に敷いたのでしょうか、輪状に編まれた植物繊維もいくつか出土しています。
かご
かご
六つ目網の籠
かご
網代編みの籠
かご
輪状に編まれた
植物繊維

祭りの道具
弥生時代の集落では、子孫繁栄・稲の豊作などを祈り、さまざまな祭祀が行われたと考えられています。また、祖先の霊を偲んだり、天変地異の折など、さまざまな機会に祭祀が行われたのではないでしょうか。
下之郷遺跡の集落内でも、盾や鳥形、木偶などを用いて祭祀が行われていたものと思われ、これらの品々が出土しています。
【木偶】
集落を取り囲む3重の環濠の一番内側の底から出土しました。長さ約17cm、幅約6cmで、胸部から下は破損しています。顔面には眉、目、口が彫り込まれて、口元には笑みが見られ、その表情はとても柔和です。
【鳥形木製品】
鳥形木製品は鳥を模した形代(かたしろ)の一種です。空を飛ぶことができる鳥は、遠方の祖先の霊や穀物の精霊を迎え入れることができる力があると信じられていたようです。
集落の入り口やはずれなどに竿や棒の先につけて飾られたようです。
【漆塗りの弓】
下之郷遺跡では多くの弓が出土しています。中には、樺(かば)が巻かれたり、漆が塗られ中央部には線刻文様で飾られた弓もあり、祭祀に使用されたと考えられます。
木偶
木偶
鳥
鳥形木製品
弓
漆塗りの弓
【朱塗りの盾】
赤い朱を塗り、糸を通した小さな穴が多数開いた盾の断片が出土しています。これは実用の盾ではなく、集落の入り口に立てかけたり、住居の壁に飾るなど集落や家を守るシンボルとして利用したり、祭りの道具として用いられたと思われます。
【ミニチュア土器】
大きな土器に交じって、高さ10cm程度のミニチュア土器が出土します。形状は通常の土器とそっくりに作られています。中には実際に火にかけた跡が残るものもあります。
実用にするには小さく、祭祀に用いられたのかも知れません。
盾
朱塗りの盾
ミニチュア土器
ミニチュア土器

その他の道具
環濠から思いもかけない遺物が出ています。
【人面に見立てたココヤシ容器】
一つは、ココヤシ容器です。なぜか、南方のココヤシが下之郷から見つかっています。
容器は長さ10.3cm、高さ10cmの楕円形で、直径約4cmの穴を開けて口にし、雌しべの跡(子房痕)を目に見立て、鼻になる小さな穴で鼻の形を作り、大きく口を開けた顔を表現しています。口の両脇には「ひげ」となる線が彫られ、鼻とひげは水銀朱で赤く着色されていました。
ココヤシの実の殻を加工して人の顔に見立てた容器は、奈良・正倉院の宝物「椰子実」と似た造形ですが、下之郷のものは、それより1000年さかのぼっています。
【織り機の部品】
また、弥生の人が布を織るのに使った部品が出てきました。これも非常に珍しい物です。
弥生時代には、麻やカラムシから繊維を取り出し布を織っていました。その織り機の部品が出てきました。部品をよく観察すると、糸と擦れてできた筋が確認でき、経糸を押さえるための部品と考えられます。
ココヤシ容器
ココヤシ容器
織り機の部品
織り機の部品
 


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